「ホフマニアーナ」 (瀬崎)
2016年 05月 01日
タルコフスキーは、いわずとしれたソ連の映画監督である。
彼は生涯に7本の映画を撮ったが、最も有名なのは「ノスタルジア」だろう。
この映画は、イタリアを放浪したロシアの音楽家の足跡を追う詩人を描いている。
監督のタルコフスキー自身もソ連から亡命しており、祖国を失った心情のゆえか、その画面は哀愁を帯びており、濡れているような美しい色彩である。
物語自体も彷徨う心のように、あてどなくゆったりとすすんでいた。
もちろん映像はストーリーを語るためのもので、そのストーリーが要求した映像であるはず。
しかし、映像がストーリーを超えてしまっていると言ってもよいほどであった。
このようにタルコフスキーの映画は圧倒的な映像美でせまってくる。
そして彼は8本目の映画の構想を立てており、本書はそれを小説として書いたもの。
題材となったホフマンはドイツの作家で、幻想的な作品で知られている。
ホフマンを文字で描きながら、どこまでもタルコフスキーの最終的な目標は映像であったのだろう。
本書でも文章で映像を表しているといってもいい。
「ホフマンはまるで自らの幻想の中で救済されいるかのようだ」とタルコフスキーは日記に記している。
それは彼自身のことでもあるのだろう。
山下陽子の8葉の銅版画が付いた美しい本である。
(WEB文芸誌「詩客」から依頼されている現代詩時評の今月号分にこの本のことを書こうかと考えている。)
by akirin2274 | 2016-05-01 22:13